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福岡高等裁判所 昭和56年(う)210号 判決 1981年9月21日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月に処する。

原審における未決勾留日数中一六〇日を右刑に算入する。

理由

控訴の趣意は、検察官栗田昭雄名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意第一(事実誤認ひいては法令の解釈適用の誤りの主張)について。

所論は、要するに、原判決は昭和五六年一月二七日付起訴状の公訴事実について、被告人が代金支払の意思および能力がないのにクレジットカードを使用し、加盟店で物品の購入・飲食・宿泊をしたことを認めたのに拘らず、カード利用者は加盟店に対して代金を支払う義務がなく、また加盟店は右利用者のクレジット代金支払の有無を配慮する必要がないとして、詐欺罪の成立を否定し、無罪を言い渡したが、これは明らかな事実誤認であり、その結果刑法二四六条の解釈適用を誤つたものである、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れないと主張する。

記録を精査し、当審における事実取調の結果を参酌すると、先ず次に列挙する事実は関係証拠に照らし疑いがない。すなわち、(1)被告人は昭和五四年五月一一日ころ西部日本信販株式会社(以下、信販会社という。)に対してクレジットカード会員の申し込みをし、これが受理されて右会員になり、自己名義のクレジットカードの発行を受けたこと、(2)この会員は、信販会社と特約している加盟店でカードを呈示し、所定の売上票に署名するだけで物品を購入したり、飲食や宿泊等のサービスを受けることができ、加盟店はその取扱いを拒絶してはならないこと、(3)右代金は信販会社が会員に代つて加盟店に立替払し、会員は右代金に一定率の手数料を加えて、これを約定の期日までに指定金融機関の預金口座に振込んで返済しなければならないこと、(4)被告人は、クレジットカードを使用して、加盟店で物品を購入し、また飲食や宿泊をしたが、いずれも当初からその代金等を信販会社に返済する意思が全然なく、支払能力も皆無の状態にあつたこと、(5)各加盟店はいずれも当時このような事情に気付かなかつたこと等の事実が明らかである。

以上の事情を基に詐欺罪が成立するかどうかを考えて見よう。先ずクレジットカードを利用する場合でも、それが売買であれ、飲食あるいは宿泊であれ、すべてその代金は利用客が負担することになることは言うまでもなく、右代金は中間で信販会社により加盟店へ立替払されるが、最後に利用客から信販会社へ返済されることが前提となつて、この制度が組立てられていることは明白である。したがつて、会員がカードを呈示し売上票にサインすることは、とりも直さず右利用代金を信販会社に立替払してもらい、後日これを同会社に返済するとの旨の意思を表明したものにほかならず、カードの呈示を受けた加盟店においても、その趣旨で利用客から代金が信販会社に返済されることを当然視して利用客の求めに応じたものと解するのが相当である。若し利用客に代金を支払う意思や能力のないことを加盟店が知れば、クレジットカードによる取引を拒絶しなければならないこと信義則上当然のことであり、このような場合にまで右拒絶が信販会社によつて禁止されているとは到底考えられない。一見確かに、加盟店はカード利用による代金を信販会社から確実に支払つてもらえるから、利用客の信販会社に対する代金支払の有無などにかかずらう必要がないかのように考えられがちであり、この点原判決の無罪理由にも一理ないとは言えないが、前叙のようなクレジットカード制度の根本にさかのぼつて考えると、一面的な見方と言うほかはない。結局被告人が、本件において、信販会社に対してその立替払金等を支払う意思も能力も全くなかつたのに、クレジットカードを使用した以上、加盟店に対する関係で、右カードの使用(呈示)自体がこれをあるように仮装した欺罔行為と認めるのが相当であり、その情を知らない加盟店から財物の交付を受け、若しくは財産上の利益を得た本件各行為は、詐欺罪に当たると言わなければならない。論旨は結局理由があり、原判決は他の論旨について判断するまでもなく、この点で破棄を免れない。

そこで、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従い、さらに自判する。

(罪となるべき事実)

第四として、次の事実を付加するほか、原判決の罪となるべき事実と同一であるから、これを引用する。

第四 西部日本信販株式会社の会員として自己名義のクレジットカードの発行を受け、同社が組織するそれぞれの加盟店においては、右カードを呈示することによつて、物品の購入、役務の提供等を受けることができ、その購入代金等については、同社が各加盟店に対し債務を負担して支払い、会員は後日同社に対して自己の銀行口座から引落しによつて代金を支払う仕組みになつているのを奇貨とし、いずれも右仕組みによつて代金を支払いする意思及び能力がないのに、右カードを使用して加盟店から物品、飲食物を騙取し、若しくはホテルの宿泊代を免れようと企て

一  別表(二)記載のとおり、昭和五四年六月二〇日から同月三〇日までの間、前後七回にわたり、前記株式会社の加盟店である福岡市中央区天神一丁目一一番一七号福岡ビル一階株式会社白牡丹福ビル店ほか六店において、同社従業員鈴元彬夫ほか六名に対し、自己に代金支払いの意思及び能力がないのにあるように装い、自己名義のクレジットカードを呈示し、同表記載の腕時計等の購入方を申し込み、あるいは飲食物の提供方を申し込み、同人らをして、被告人に代金支払いの意思及び能力があるものと誤信せしめ、よつて、その都度、その場において、同人らから同表記載の腕時計等九点(価格合計四四万二、六〇〇円)の交付を受け、またはコーヒー等の飲食物(代金合計一万七、八二〇円)の提供を受けて、これを騙取し

二  別表(三)記載のとおり、同年六月三〇日から同年七月三日までの間、前後三回にわたり、西部日本信販株式会社の加盟店である博多東急ホテル株式会社ほか一か所において、同社従業員赤坂清香ほか一名に対し、宿泊方を申し込み、そのころから翌日まで同ホテル等に宿泊して宿泊の利便を受け、同表犯行日欄記載のとおり、同年七月一日から同月四日までの間、同ホテルを退去する際右赤坂ほか一名に対し、自己に代金支払の意思及び能力がないのに、あるように装い、自己名義のクレジットカードを呈示し、同人らをして被告人に宿泊代金支払いの意思及び能力があるものと誤信させてクレジットカードによる宿泊代金の立替払を承諾させてその場での宿泊代金の支払いを免れ、もつて宿泊代金合計四万五〇〇円相当の財産上不法の利益を得たものである。

(徳松巌 斎藤精一 桑原昭熙)

別表 (二)

番号

犯行年月日

(昭和五四

年月日)

犯行場所

被欺罔者

被害品

騙取品

数量

価格(円相当)

1

六・二〇

福岡市中央区天神一丁目一一番一七号

福岡ビル一階株式会社白牡丹福ビル店

鈴元彬夫

腕時計

ほか一点

二点

一七三、八〇〇

2

右同

同区天神二丁目八―二二〇新天町商店街

株式会社マツキヨ時計店本店

小林正輝

女物腕時計

一個

一五九、〇〇〇

3

右同

同区天神二丁目九―二一〇新天町商店街

株式会社コドモヤ本店

松島栄子

子供用

ズボン・

シャツ

四点

一〇、二〇〇

4

六・二二

同市博多区博多駅前三丁目三番三号

株式会社博多全日空ホテル喫茶「テラス」

中原直博

飲食物

三、三〇〇

5

六・二三

同市中央区天神二丁目天神地下街二号

岩久株式会社経営のジエイペック地下街店

宮田晃

男物シャツ

二枚

九、六〇〇

6

六・二五

同市博多区博多駅前三丁目三番三号

株式会社博多全日空ホテルグリル「カザリス」

大澤哲生

飲食物

一四、五二〇

7

六・三〇

同市中央区天神二丁目八―二二〇新天町商店街

株式会社マツキヨ時計店本店

永吉治文

ライター

(デュポン)

一個

九〇、〇〇〇

別表 (三)

番号

犯行年月日

(昭和五四年月日)

犯行場所

被欺罔者

宿泊料

1

六・三〇から

七・一まで

福岡市中央区天神一丁目一六番一号

博多東急ホテル株式会社

赤坂清香

一二、〇〇〇

2

七・二から

七・三まで

同区輝国一丁目一番三三号

株式会社福岡山の上ホテル

横手雄二

一五、〇〇〇

3

七・三から

七・四まで

同区天神一丁目一六番一号

博多東急ホテル株式会社

赤坂清香

一三、五〇〇

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